京都大学大学院 経済学研究科 大学院入試にどのように立ち向かうのか

大学院入試は学部入試(いわゆる大学受験)と違って,出ている情報が少なく,一体何から手をつけていいのかが分からないと思います.
もちろん僕もそうでした.しかし合格して振り返って見るに,根気よく対策さえすれば,誰でも合格することができる試験であることも事実です.

そこで今回は大学院入試にどのように立ち向かうのかということをメインに書きます.

しかし注意していただきたいのは,僕が受験したのは京都大学大学院経済学研究科だけであり,それ以外の大学院入試に関しては,全くわからないということです.

というわけで,大学院入試にどのように立ち向かうのかということをメインにとは言いましたが,実際のところそうではなくて,もっとスペシフィックに,

京都大学大学院 経済学研究科 大学院入試にどのように立ち向かうのか」

という内容になります.この点ご了承ください.




* * *




▼受験科目選択に関して


京大の経済学研究科の入試の受験科目は

1:外国語
英語,独語,仏語,中国語,露語および韓国・朝鮮語の中から1カ国語を選択.


2:専門科目
経済原論,経済史,経済政策,経営学会計学,経済数学の6科目があり,そのうち4問を解答.ただし,1科目から2問までしか解答できない.


となっています.(詳しくはHPから募集要項を参照してください.)

外国語に関しては,ほぼすべての人が英語一択でしょう.
(もちろんこれらの外国語のうちの一つが抜群にできるならば,他の外国語の選択肢もあり得ると思います.)

問題は専門科目です.

おすすめの受験科目は,

ミクロ経済学マクロ経済学・経済数学・統計学及び計量経済学

のセットです.多くの人がこのセットのような気がします.もちろん僕もこのセットでした.
このセットの科目では出る範囲がある程度限られている以上,ほぼノータッチからの学習でも,これらは比較的対策がしやすいと思います.

裏を返せば他の科目は対策がし辛い科目であると言えます.

何よりも「何が出るのかさっぱりわからない」わけです.
もちろん他の科目を集中的に研究するゼミに所属している人は,それを受験するべきでしょうが,ノータッチからの学習ならば,リターンに対して高すぎるリスクをテイクすることを推奨しません.

大博打に出るよりは,必死で勉強すれば確実に点が取れるであろう,「ミクロ経済学マクロ経済学・経済数学・統計学及び計量経済学」を受験することを,強くお勧めします.

ちなみに,難易度に関しては,個人的な主観ですと

ミクロ経済学定期テストに毛が生えた程度.国家一種試験よりは明らかに難しい.
マクロ経済学:^q^<やめてください しんでしまいます
経済数学:その気になれば高校生でも解ける超楽勝サービス科目.行列の足し算とかやらされちゃう.
統計学,及び計量経済学:対策をすればとても簡単な科目.


という具合です.
個別の科目に関する具体的な対策については,また以下で触れます.




▼準備期間に関して


大学院に進学しようとしているのですから,ある程度は学部において学習してきているはずです.
最低でもミクロ・マクロの用語や計算問題,何をやっているのかくらいは大体分かっているかと思います.
以下はこの前提のもとに議論を進めます.


極端な話をすれば,院試の準備期間は1ヶ月半で事足りると思います.

しかしこれだと精神的に相当キツイものがあるので,大体4ヶ月程度を確保する計画をお勧めします.僕自身も院試の準備にかけた期間は4ヶ月程度,つまりB4の5月上旬に学習をスタートさせました.
4ヶ月程度あれば,ほぼノータッチの分野があったとしても,無理なく本番にアプローチできると思います.
(それでもやはり相当に精神的にキツく,また本当に「無理なく」と言っていいものかは分かりませんが...)

初期に何かをしろとか,最後の一ヶ月に何かをしろとか,そういうのは書く意味が無いので書きません.
この計画は自分自身で立てるのが最適です.

しかしあくまで参考として僕自身のやったことを上げると,

5月:ミクロをさらっとやりながらあんまり知らない線形代数を勉強する.
6月:統計・計量集中期間ということで,テキストをひたすらノートにまとめる.
7月:マクロをチラチラ見ながらミクロを集中的にやり直す.統計・計量の問題も解く
8月:経済数学を思い出しながら全科目修羅の刻へと至る.過去問を解きまくる.
(英語は全期間コンスタンスにやってました.論文読んだり教科書の原著読んだりも.)


って感じです.
(ついでに言うと8月はツイ禁してました.)




▼過去問に関して


HPには過去4年分の専門科目の問題がアップロードされていますので,これは楽に手に入るでしょう.
問題は,これ以前の専門科目の過去問と,英語の過去問です.

専門科目は過去の問題と現在の問題では難易度に乖離があります.
ちょっと前のに出てた,厚生経済学の第二定理を証明せよとかはもう多分言われません.無理.無茶言うな.
という訳で,そこまで過去の問題にこだわる必要はないと思います.
(もちろん余力があればやればいいのですが...)

だから,最優先で見つけるべきは英語の問題です.
英語の問題はHPでも公開されておらず,京大の教務課での閲覧となります.
残念ながらコピーは不可との規定がありますので,以前受験した人から過去問をコピーさせて頂く等しなければ,過去問で演習をすることができません.
しかし結構周りに過去問を持ってる先輩がいらっしゃるものです.
何としてでも探し出して,一度解いてみることを強くお勧めします.



▼各科目に関する具体的な対策




1:ミクロ経済学


京大のミクロ経済学の問題では一般均衡理論」「簡単なゲーム理論」「簡単な契約理論」が頻出です.
大体,ここから2問出題されます.(24年度の問題では少し感じが変わって,とても簡単な消費者理論と,公共経済学的な問題が出ました.ちょっとびっくり.一箇所解けなかった.ちょー悔しい.
もちろん学部で使用するようなテキストは暗記するレベルでやるべきですが,これらの範囲を中心に学習すれば効率的な学習が可能だと思います.

上でも書きましたが,問題が問うている内容自体はそんなに難しいものではありません.京大経済学部の定期テストに毛が生えた程度の問題です(国家一種よりは明らかに難しいです).
また,2問中1問はとても簡単な問題が出題されるので,これは正解するべきだと思います.これを取らなければ多分落ちます.
しかし計算が異常に煩雑な年が結構あるので,それには要注意です.

また,これはマクロにも共通することですが,何でもかんでもラグランジュの未定乗数法を使って解いてはいけません.最悪死にます.
過去の問題でも多く出ていますが,効用関数の形状によっては,端点解が答えになることも十分にありえます.
最適化とは何かということを常に意識しながらやるべきです.

使ってもいいか悪いかをきちんと判断した上で,ラグランジュの未定乗数法は使用するべきです.

さて,メインテキストは,おなじみ「奥野ミクロ」です.

奥野ミクロのテキストと,この本の演習書を繰り返し繰り返しやるのが良いです.僕は演習書を5週解きました.(院試対策を始める以前から解いてたから,実際はもっと解いてるかも.それくらい良い演習書です.)

基本的にミクロはこれだけで事足りると思います.全文暗記し,全ての数式に経済学的インプリケーションを与える覚悟でやれば,必ず結果はついてきます.最高のテキストと演習書です.絶対にやるべきです.
しかし双対性に関する記述に弱く,その点に関しては何か他のテキストで補う必要があります.
僕はこれまたおなじみ「武隈ミクロ」で補いました.

「院試対策」として定番の「武隈ミクロ」とその演習書ですが,双対性に関する部分以外はやる必要があまりないと思います.
数値計算ばかりで,解いているうちに結局何をやっているのかを見失います.あと計算ミスでメンタルがバッキバキに折れちゃいます.これ結構マジで.
個人的には,武隈ミクロの演習書をやるならば,奥野ミクロの演習書をじっくりと一問一問,時間をかけて何度も何度も解いて,完璧に仕上げるべきかなと思います.




2:マクロ経済学


正直なところ対策のしようが無いと言うか,今まで学部でやってきた学習の成果を発揮して,その場で即応するしかない科目だと思います.
過去問を見れば異常に難しい年があることに気がつくでしょう.
過去問を見ていて特にやっておくべきだと思うのは,「ソローモデル(離散型・連続型の両方)」「マクロ経済の一般均衡モデルたくさん」です.
僕はこれらを中心に学習していました.(24年度は連続ソローと一般均衡がそのまま出てくれて,とてもラッキーでした.)
IS-LMモデルやAD-ASモデルなどのいわゆるケインズ経済学はそのままの形では出ないと思います.

院試対策として読んだテキストは,実はありません.
京大のマクロに関しては,院試のためにテキストやったかやってないかとか,そういう問題じゃないような気がします.
ただ,今まで読んで,よく考えたら院試の役に立ったなと思うテキストは,


「浅子マクロ」


「堀・二神マクロ」


「齊藤先生らのマクロ」


です.

また,

「The ABCs of RBCs」

という本もやってよかったと思います.

とにかく,マクロ経済学のやっていることを,なんとなくでもつかむことが大事です.
これらの本のうちの全部をやる必要はないと思いますが,どれかを読んでみて,ある程度の問題には対応できるような素地を作っておくべきです.

ちなみに,多分とっつきやすいのは「堀・二神マクロ」です.僕は個人的には「浅子マクロ」が大好きです.



☆「連続型ソローモデル」について
普通,学部では習わないので,これに関しては特に対策が必要です.
これは「ローマー」の第1章一択です.
第1章だけでいいから読んでおくことを強くお勧めします.
読んでなかったら運が悪ければマクロ1問目の「微分方程式を導け」で即死します.




3:経済数学


その気になればそのへんの高校生でも解ける超楽勝サービス科目.
行列の足し算とかやらされちゃう.でも計算がとってもめんどくさかったりします.場合分けのめんどくささもストレス溜まる感じでいやらしい.
「行列の対角化」と「線形独立の定義」や「テイラー展開」はちらっと見ておくべきです.

これらに関しては木島先生と岩城先生の「経済と金融工学の基礎数学」を,とある先輩にご紹介いただきましたので,それを使用しました.
読めば分かるようなところや,明らかにオーバーワークでいらないところは飛ばしました.


また僕は線形代数が苦手だったので,石村先生の「やさしく学べる線形代数の必要そうなところも2週程度テコ入れにやりました.

さらに,前者2つで記述がわかりにくいところは,岡田先生の「経済学・経営学のための数学」で補いました.
特にスモールオーダーに関する部分は岡田先生のテキストにとてもお世話になりました.


集合論に関する問題も頻出です.
これは過去問を見れば,出る証明の種類が少ないことがと分かるはずなので,それを暗記してしまうのがいいかと思います.(大体12種類くらいかな?)
僕は松坂先生の「集合・位相入門」の1・2章を3週やりました.


余談ですが「成り立たない場合を示せ」って問題は,非線形函数引っ張ってくれば一発です.
とりあえずf(x)=x^2+1とか引っ張ってきましょう.多分何とかなります.

これだけやれば経済数学は間違いなく9割は取れると思います.勝負科目です.




4:統計・計量


僕が最も苦手とする科目でした.対策を始めた5月初頭には検定のやり方すら危うい状況でした.
それでも集中的にやればなんとか合格圏に持っていくことができます.

頻出分野は「同時確率」「検定」「検定統計量の不偏性・一致性の証明」です.
最近は統計分野ばかり出ている感じですが,「OLS推定に関する理論」も頻出です.特にBLUEに関する証明がめっちゃ出ます.

僕は,最初に森棟先生らの「統計学を使用しました.

このテキストの重回帰のところまでを4週やった所で,東京大学出版会の「統計学入門」に切り替えました.
こちらのほうがわかりやすいと思います.初めからこっちやってたほうが良かったかも.


これを2週程度やった後に,定番の山拓計量」の最初の部分をやっていました.

上でも言いましたが,特に集中的にやったのは「OLS推定に関する理論」です.
OLS推定量はどのようにして求められるのかという話と,その不偏性の証明は10回以上見ました.
この科目は特に暗記せねばならないことが多くて,途中で心が折れそうになりますが,しかし一度わかってしまえば,試験対策はそんなに難しいものでもないということにも気が付きます.
とにかく根気が必要な科目ですが,教科書を何度も何度も読み返せば必ず分かるようになると思います.




5:英語



京大の学部入試の劣化版です.
単語もそこまで難しいものが出るわけでもなく,また,問題自体も変な問題ではなくて,「訳せ」って感じの問題か,全文を要約せよって感じの問題ばっかりです.


内容は経済学っぽい話と経営学っぽい話の,英文が,全部で2問出ます.
(最近は英語の学術論文から一つと,簡単そうなテキストの抜粋から一つ,という感じです.23年度は「もしドラ」に関するエコノミストの記事の要約が出てましたけどw)

日頃から海外のテキストの原著を読んでいる人ならば対策無しでも多分OKです.
ただし,問題の量が多いです.
1時間30分の試験時間の中で,常にペンを動かしていることが求められます.こればっかりは一度時間を計測して感覚をつかむしかないです.
そのためにもなんとしても過去問を手に入れるべきです.

しかし,残念なことに英語の過去問が手に入らない場合もあると思います.
その場合は,同じ京大の「公共政策大学院」の英語の問題が(少し長いですが)似たような問題ですので,それで代用するのがいいでしょう.こちらはHPで公開されています.
(東大や一橋,阪大など他の大学院の英語の問題をやることは,無意味だとは言いませんがあまり点に繋がらない気がします.)これを2問とも書き切ることができれば,合格にぐっと近づきます.(なんでも英語が一番差のつく科目だとか.)

学部入試での遺産をどれだけ温存できているのかにもよる気もするのですが,具体的な対策として,毎日経済学に関する英文を読むことをお勧めします.
僕は論文や教科書の他に,これを暇つぶし程度に読んでいました(結構面白かった).

また,軽視されがちですが,合格したいのならば単語帳は結構重要だと思います.

使っていた単語帳は「京大・学術語彙データベース 基本英単語1110」です.
これの「文理共通」と「文系単語」をやりました.「理系単語」はマニアックすぎて院試には不要です.

レイアウトは最悪ですが,この単語帳は,学術論文のデータベースから引っ張ってきた「論文で使われている英単語」を抜粋して掲載しているので,院試にぴったりでした.
実際とても役に立ったと思います.これやってなかったら自信を持って解答できてなかったかもって所が何箇所かありました.

何週やったか分からないのですけど,通学途中の京阪電車の中ではこの単語帳しか読まないと決めてやってました.





▼まとめとそのほか



以上,「京都大学大学院経済学研究科の院試にどのように立ち向かうのか」をざっとまとめてみました.
この雑文が,多くの方の大学院受験のご参考になれば幸いです.

以上のことをしっかりとやれば,ほぼ確実に合格するのではないでしょうか.
(ちなみに合格ラインは5割程度みたいです.全部解かなくても合格できるのです)

身体的なキツさもあるでしょうが,何よりも院試で大変なのはメンタル面での辛さだと思います.
周りが内定を得ていく中,自分だけが進路を決めていないという現状.過去問を解いてみたときに間違えた絶望.僕も不安で何度もバッキバキに心が折れました.
(マジ死ぬかとおもた.一時は悲しくもないのになぜか涙が止まらなくなった.)

しかし,不安を打ち消してくれたのは,徹底的な学習でした.
落ちたらどうしようと悩んで頭を抱えるのではなくて,落ちないように勉強すると決めて机に向かっていたら,いつの間にか不安は解消されました.

さらに,周りに相談するのも大変有効です.僕は友人たちや,指導教官の先生,先輩方に大変励まして頂きました.
このことにはとても感謝しています.彼らの助言がなければダメだったと思います.

また,ある方に1時間の学習後には部屋から出て10分程度の休憩を挟むことを勧められたのですが,これは非常に効果的でした.
メリハリをつけてすっきりと勉強できました.肩こりもちょっとマシに.

心身の管理は学習と同程度に重要です.


院試はとにかく長く辛い戦いです.しかし冒頭でも書いたとおり,「きちんとやれば合格する正直な試験」でもあります.

頑張ってください.結果は必ずついてくると思います.